奈落の果てで、笑った君を。
わたしは走っていた。
心地いい風を全身で受けて、好きなだけ手足を動かして。
まだ日は落ちていなかったが、そろそろ帰る頃合いだと思ったから。
屯所へ、まっすぐまっすぐ駆けていた。
『やっぱり変わってない…』
あれが夢だったんだ。
わたしはいつものように変わらず過ごしているし、この町だって戦場にすらなっていない。
歩けば子供たちや町人が笑っていて、のどかな川のせせらぎや花びらの成長を目に見て感じることができる、京の都。
見廻組屯所───門にかけられた看板を見つめ、わたしはじっと佇んでいた。
『おい朱花、んなとこでボーッと突っ立って何してんだ?』
『あっ、野中!生きてたんだね!!』
『…はやく行かねェと邪魔になるぞ』
『うんっ』
殺されてなんか無かった。
わたしが見た夢ではね、野中はわたしを庇ったことで仲間に殺されちゃうの。
それで野中を斬った隊士は只三郎から切腹を命じられて、そこで腹を切った。
でも、そんなことなかった。
だって切腹した隊士もまた、わたしが屯所内へ戻れば『おう朱花』と、挨拶をしてくれる。