奈落の果てで、笑った君を。
『あれ?尚晴は…?』
部屋に向かっても、調理場を覗いても、広間をひとつひとつ探してみても。
わたしがまず始めに会いたい彼の姿は一向に見当たらない。
『あっ、おふとんっ!』
夢のなかでは野宿がほとんどだった。
このふわふわに包まれるとすぐに眠ってしまうはずが、今日はそうでもない。
尚晴はもしかするとジュンサツに行っているのかもしれない。
いつものように遊んで待っていよう。
ここには折り紙だってあるし、外の庭には雪まで積もっている。
退屈なんかしない、とても温かくて優しい場所。
『おっとー、なんでこんなところにいるんだい朱花』
『っ…!』
布団などそっちのけ。
背後から呼びかけられた声にすぐ振り返って、わたしは飛びついた。
『かつら……っ!!!』
『うわ、ちょっと、なーにクソガキ。ええ、どーしてそんな泣きそうな顔してんのさ』
『かつらっ、桂…っ』
夢で良かった。
あのときの銃声も、川に落とされたことも、最後の笑顔も。
ぜんぶぜんぶ、悪夢のような夢で。