奈落の果てで、笑った君を。




『桂が死ぬわけないもんっ!!』


『…本当にごめん。冷たかった?』


『え…?』


『……雪。外で遊んで来たんだろう?』



身体をそっと離すと、ふっと優しく伸びる眼差し。

ぽんぽんと、わたしの頭に乗ってなどいない雪を払うように撫でてくれた。



『向こうに佐々木さんもいるよ。みんなでご飯たべよう』


『只三郎…!!』


『わっ』



桂の腕を掴んで、そのまま只三郎のもとへ走る。


そうじゃないとまたいつ急に離れてしまうか分からないから。

今度は川じゃなく、井戸に落とされてしまうかもしれない。



『朱花、そんなに急いでどうしたのですか』


『っ、たださぶろう…っ』



いる、ちゃんとここに居る。

並べられている膳、穏やかに姿勢よく座っている与頭。



『変な夢見たの…!みんな死んじゃってね、そんなわけないのにねっ』


『…こちらへおいで、朱花』



すぐに向かう。

わたしの頬をそっと拭った只三郎は、泣きそうな顔で微笑んだ。



『またずいぶんと泥まみれだね』


『いっぱいいっぱい走ったの!』


『…さあ食べようか。きっとお腹も空かせているでしょう?』


『うんっ!』



< 381 / 420 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop