奈落の果てで、笑った君を。




おはげ、サクラのおもち。
お雑煮、オミソが乗ったおとーふ。

スイカ、おせち、オミソの汁。



『ねえねえ桂、ノブちゃんもいないよ?』


『あー、…うん。まだこっちには来てないみたいだねえ』


『ジュンサツ?』


『…頑張ってるんだよ。きっと』



じゃあこのお料理は女中さんが作ってくれたのかなあ。

尚晴とノブちゃんの両方が居ないだなんて、寂しい。



『ずっとここに居たい…』



もう少し待っていればふたりも揃うはずだから。

わたしのお家は暗い牢屋なんかじゃなくて、ここだから。



『朱花。でもここには、尚晴はいないよ』


『ジュンサツでしょ?もうすぐ来るから!』



そんなわたしに桂も只三郎も微笑むだけ。


夕食時のはずが、空には月が出ていない。

朝でもなく、夜でもなく、夕方でもなく、サクラの季節ではないのに薄紅色がひらひらと舞っている。


ただただ、優しくて、心地がいい世界。



『あ!かざぐるま!!』



そのときだった。


襖からチラリと覗く、朱色。

壊れていたはずの宝物も、綺麗に元通りとなっていた。



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