奈落の果てで、笑った君を。
尚晴side




まるで見世物だ。

そんなに面白いのか、罪など無い人間に理不尽にも裁きを与える瞬間というものは。


江戸川が流れる河原に座らせられた俺たちの前、並んだ奉行所の役人、橋の上や堤防からは町人が興味本位に集っては顔を覗かせる。


────処刑、当日。


そこで俺はしばらく離れていた朱花の姿を目にした。

だが口には丸めた固い布を噛ませられているため、声を出すことができない。



「ではこれより、死刑執行を致す」



着せられた白衣、背中で結ばれた両手首、介錯人が俺と朱花のそばにそれぞれ立っている。


北町奉行所と南町奉行所は江戸の町でも有名な役所だが、今回俺たちに裁きを与えようとしているのは中町奉行所の者どもだった。


この中町奉行所とは、表にはあまり出ない奉行所だと噂があった。

北町奉行所や南町奉行所では裁けない秘密処理を行う、裏で動く組織だと。



「これは幕府からの命だ。処刑内容は覆せぬが、最後に言い分だけでも聞いてやろう」



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