奈落の果てで、笑った君を。
後頭部で縛られていた猿ぐつわが、やっと外される。
すぐに俺は呼吸をするように朱花の名前を呼んだ。
「朱花……っ!!」
「静まれぃ!!誰が余計なことを話していいと言った!!」
「うぐ…ッ!!」
太い竹で身体が打たれる。
この数日間のあいだ牢に閉じ込められていたときも何度も受けていたため、この痛みには慣れたものだった。
「しょう…せー…」
「朱花、大丈夫だ…、俺が絶対に守る」
あの一報は、きっと朱花も知らされたのだろう。
鳥羽・伏見の戦いで旧幕府軍は大敗。
新撰組からも多くの犠牲者が出て、見廻組では佐々木さんと早乃助さんが戦死したと。
俺も信じられなかった。
信じたくもなければ、今だって信じていない。
「なぜ…、朱花を処刑するのですか」
意味が分からなかった。
ただ、これだけなんだ。
あんたら全員に俺から言いたいことは。
確かに俺はたくさんの人間を殺した。
だとしても、それは殺らなければ殺られるからだ。
それでも朱花はただ生きていただけだろう。
生きたいだけだろう、生きているだけだろう。
それのどこに、命を亡くしてまでも裁かれなくてはならない理由があるんだ。