奈落の果てで、笑った君を。




野中を斬った男か。

そいつが切腹をする直前、佐々木さんにそうしていた気がする。



「そのとおりだ。お前が生きることで皆に迷惑をかけ、お前が存在することもまた、迷惑なのだ」


「……ごめん…なさい」



ちがう、そんなことしなくていい。
する必要もない。


たとえ朱花がどんな扱いをされていたとしても、身の丈として見れば徳川の姫でもあるお前に頭を下げさせては良い気になっているだけだ。こいつら全員は。



「ごめんなさい、ごめん…なさい」



それでも、最期の最後で間違えてしまっている少女を愛しいと思ってしまった俺は。

“ごめんなさい”ではない。
“ごめんください”だろう、ここは。


なにも、なにも、悪いことなどしていない。


生まれてくること、生きること、走ること、笑うこと、

それのどこが悪いんだと正面から聞いたとき、こいつら全員は決まって逸らす。


俺たちは今、そんなくだらない中に身を置いているんだ。



「ふ、ふつうじゃなくて……、っ、ごめんなさい……っ」



そんな声など、初めてだった。


この状況から打破するために言っているのではなく。

ましてや俺を解放させるために、どうにか俺を守ろうとするために言っているのでもなく。



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