奈落の果てで、笑った君を。
それは朱花が心のどこかで抱きつづけてきた本心なのだろうと思える、かなしい言葉。
「っ…、ちがう…、お前は……生きていい人間なんだ」
生きなくてはならない人間なんだ。
佐々木さんと早乃助さんのぶんも、藤堂 平助のぶんも。
あのとき大坂城に残り、俺たちを見送ってくれた仲間たちのぶんも。
「なに……っ!?ぐは…ぁッ!!」
背後に居たひとりに拳を入れ、そいつが手放した刀を拾って斬る。
無謀だとは分かっている。
こんなことをしたところで結局は捕らえられるということも。
だが、俺は今まで、朱花を守ってやることなどできただろうか。
いつも逃げて、迷って、後悔して、半端なことばかりをしてきて。
それでも屈託のない無邪気な笑顔に守られて、俺の涙をいつだって受け止めてくれたのは朱花だ。
「貴様…っ!捕らえろ!捕らえろぉぉぉーーー!!!」
「なにをしておる…!!相手はたかが1匹であろう!!!」
白衣の帯に忍び込ませていた石の欠片。
牢のなかで見つけたそれは、よく尖っており、せめて両手首を縛る縄くらいであれば切ることができそうだった。
ずっと俺は質疑応答に答えながらも、こうして地道に擦っていた結果は、自由になった両手が知らせてくれた。