奈落の果てで、笑った君を。
「尚晴っ、死んじゃう…!死んじゃうよ……!!」
ドガッ!!ボコ───ッ!!
ガッッ!!!
「はっ…、ぐは……ッ!!」
武士にとって斬首ほど憐れなものはない。
武士ならば己の腹を切ることが、武士としての立派な覚悟だ。
だからこそ俺に斬首以下のことをさせたいのだろう、この役人どもは。
峰打ちを食らわせられ、殴られては蹴られ。
意識が無くなる寸前で止められてを繰り返された俺はもう、この場にいる全員を片付ける気力など残ってはいなかった。
「………あす……、か…」
だとしても、こいつだけは守りたい。
なにがあったとしても、そこが奈落だとしても、俺が生きているかぎりは守ると誓った。
血だらけの手を伸ばし、震える目で見上げてくる朱花へと近づく。
「しょう…せい…」
その身体に腕を回し、脱力するように抱きしめた。
やはり成長しているじゃないか。
初めて抱きしめたときよりも、伝ってくるぬくもりがずっとずっと温かい。
髪だって艶やかで、肌だって柔らかく、優しい。
そう自分に言い聞かせることで精いっぱいな俺の情けなさに、涙が溢れた。