奈落の果てで、笑った君を。
どんなものにもこだわりがない少女は、己の呼び方でさえ確率していなかった。
何者にも、何物にも、縛ることも縛られることも望まない。
今だって最終的には俺に訂正される嬉しさを感じたところで満足なのだ。
それにしても与頭(くみがしら)の男をそんなふうに呼べるのは朱花くらいだろう。
この大した肝の据わりようは、剣を持った男たちに囲われる毎日で過ごせるだけあると。
生粋(きっすい)の怖いもの知らず、好奇心旺盛。
したがって危なっかしく、放ってはおけない。
「聞いててね?いくよ?」
「ああ」
元服するかしないか、見た目はそれほどの少女に“朱花”という名を付けたのは自分だった。
よく似合う───。
少女が笑うたびに、朱く染まった椿の花が見える。
(やはり髪が伸びていないな…)
出会った頃から6ヶ月ばかりが経てば、変化する場所は変化するというのに。
たとえば髪や爪。
日々を生きていれば自然と伸びるものが、この少女はそうではなかった。