奈落の果てで、笑った君を。
俺はもう、覚悟していた。
覚悟していたから、聞こえた声など幻聴に過ぎないと。
輪廻転生というものに懸けるなど嘆かわしい話だが、この世で生きるには朱花は純粋すぎた。
きれいが過ぎたのだ。
もし神がいるとするならば、必ず見てくれている。
だから次の世こそは幸せになれる。
そう思いながら目を閉じていた俺たちを囲んだ刃が、どうも音沙汰を消した。
「我、朝廷で関白を勤めるものなり。天皇から命のもと、こちらへ仕(つかまつ)った」
「…なに…?かんぱく、だと…?」
不思議と手足の力と意識は戻った。
俺はすぐに目を向け、新たに現れた神のような人物を捉える。
ぞろぞろと袈裟(けさ)姿に似た大衆を引き連れては、先頭を率いる馬に乗った男がひとり。
しかし、その男だけはどこにでも居るような旅人の格好をしていた。
「そんな身なりをしおった男が関白だと!?嘘を申せ!!」
「俺はこうしてよく旅人のふりをして日本中を飛び回るのが好きなんだ。…その娘は我の友だ」