奈落の果てで、笑った君を。
どこかあの人に似ていると思った。
この国のため、未来のため、すべてを変えようとしていた男に。
────坂本 龍馬に。
言葉を詰まらせ動揺を見せる奉行所の役人など構いもせず、男は俺たちのそばまで向かってきた。
そしてひょいっと馬から軽々と降りる。
「我に助けて欲しいか」
本当に関白なのか…?
もっと貴族らしい雰囲気と気高い何かがあるように思えたが、この男はそうではない泥臭さがあった。
しかし、ふと見える鋭さは本物なのではないかと。
だがそんなことはどうだっていい。
味方がいるのなら、俺たちの味方となってくれるのなら、それだけで。
俺は朱花から腕を離し、無我夢中に頭を下げた。
「助けてください……っ!!俺はどうなったっていい、でも朱花だけはっ、朱花だけは助けてやってください……!!」
武士は、簡単に頭など下げてはならぬもの。
武士であるならば、簡単に涙など見せてはならぬもの。
こんなにも愚かで惨めな姿を見せるくらいならば、それ前に腹を切るのが武士としての誇りだ。