奈落の果てで、笑った君を。




「だが我は関白だ、そう簡単に動くような立場ではない。そのためには報酬が必要となる」


「……ほう、しゅう…?」



なにも持っていない。

俺たちはもう、なにも。


両手首を解放された朱花は咄嗟に懐を漁るが、関白を動かせるほどの代物など出てきやしなかった。



「朱花、銭貸はあるか。…俺がお前さんを京にまで案内してやったときに受け取らなかった銭貸は」


「っ!あるっ、ある…っ!」



それは、少女がずっとずっと手に握りしめていたもの。


いつかに朱花は俺に話してくれたことがあった。


京に来るとき、少し変わった旅人に出会ったと。

同じような身なりをしていたけれど、自分が知らないことをたくさん教えてくれて。

気が合う一面と、たまに見える近寄りがたい一面を持っていた、と。


その男に火の灯し方や魚の採り方を教わったという。




「承ったぜ、お嬢ちゃん」




そんな男は少しばかりの銭貸を受け取り、得意げに笑った。



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