奈落の果てで、笑った君を。
あれからいろんなことを覚えたんだ。
お城から出て、江戸の町を走って、たくさんの人に出会って、助けられて。
そこでまた新しいことを教えられて。
わたしはわたしとして、ちゃんと生きることができるようになった。
「…あすか」
「っ…、っ、」
涙が止まらない。
今までみたいに笑うことができない。
笑えないよ尚晴。
笑顔って、どうやって作ればいいんだっけ。
「朱花」
名前なんか無かったのに。
何度も何度も、わたしの名前を呼んでくれる。
すると名付け親でもある彼は、わたしと向き合って両腕を頬に伸ばしてきた。
「ひょう…へ…」
「…ふっ。へんなかお、だな」
むにゃりと、優しくつねられた左右の頬っぺた。
こんなことされなくたって、わたしは笑うことができるんだよ?
「今は俺のほうが朱花より笑顔がずっと上手だ」
ぽたりぽたりと、ニッと笑った尚晴の頬にもわたしと同じくらいに流れていた。
へにゃりと笑ってみると、それもまた変な顔だと笑う尚晴。
「生きよう。俺たちは……生きるんだ」
生きている。
わたしたちは、生きている。
たくさんの仲間たちに生かされた命。