奈落の果てで、笑った君を。
ドロリと、手に付着している赤色。
これだ、この匂いだ。
鼻をつんざいては離れない匂いの正体は。
「…なにをしているんだお前は」
そっと、目線を上げてみる。
すでに銀色をしまっては、静かに見下ろしてくる新たな男がいた。
よく見えなかったため、落ちていた赤い明かりを手にする。
ピシッと着付けられた袴、腰に差された棒がふたつ。
鋭い瞳と寄られている眉は、混乱と動揺を必死に抑え込もうとしている気持ちが見えた。
「へー、すけ……じゃない」
似ていると思ったのは、まだそこまで大人ではない幼さがあったから。
なにをしているんだ、と言われて考えたけれど。
おれはただ、人が来たから話していただけ。
おれから何かをしたわけじゃない。
そしたらあなたが来ていただけ。
「…ごめん、なさい」
でも叱られたときは、こう言うんだっけ。
昼間に唾を吐かれたおじさんに教えてもらった。