奈落の果てで、笑った君を。




ドロリと、手に付着している赤色。

これだ、この匂いだ。
鼻をつんざいては離れない匂いの正体は。



「…なにをしているんだお前は」



そっと、目線を上げてみる。

すでに銀色をしまっては、静かに見下ろしてくる新たな男がいた。


よく見えなかったため、落ちていた赤い明かりを手にする。


ピシッと着付けられた袴、腰に差された棒がふたつ。

鋭い瞳と寄られている眉は、混乱と動揺を必死に抑え込もうとしている気持ちが見えた。



「へー、すけ……じゃない」



似ていると思ったのは、まだそこまで大人ではない幼さがあったから。


なにをしているんだ、と言われて考えたけれど。

おれはただ、人が来たから話していただけ。

おれから何かをしたわけじゃない。
そしたらあなたが来ていただけ。



「…ごめん、なさい」



でも叱られたときは、こう言うんだっけ。

昼間に唾を吐かれたおじさんに教えてもらった。



< 41 / 420 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop