奈落の果てで、笑った君を。
終章
それから長いようで短い月日が流れた。
鳥羽・伏見の戦いから始まったとされる戊辰(ぼしん)戦争は旧幕府軍の敗戦と終わり、訪れた新たな世。
「えーっと、確かこのあたりだったんだけど……、どこだっけ?」
「片っ端から聞き込むにしても…ここは長屋の集落だからな。手こずりそうだ」
「えへへ、ごめんね?」
「…可愛いから許す」
この町に戻ってくることが、少しだけ懐かしい感覚。
町人の気合いと根性、それから諦めない心によって、戦後の町の復興はものすごい速さだった。
静かな場所で暮らしていたわたしたちは、この江戸に訪れる前は京の都へ向かい、仲間たちに挨拶をしてきたばかり。
「それにしても名前すら知らないのか」
「うんっ。聞いてなかったから!」
「…ふっ、お前らしいな」
名前の大切さを教えてくれたのだって、今わたしと手を繋いでいる人だ。
また少しだけ大人っぽくなってしまった彼にわざと拗ねた反応を見せると、甘い口づけが返ってくるような。
そんな毎日は、幸せだった。