奈落の果てで、笑った君を。
「おねーちゃん、おにーちゃん。なにしてるの?」
「え?」
「ここ、ぼくのおうち」
とりあえずひとつの長屋の前で立ち往生していると、高らかな声がかかる。
振り向けば5歳ほどの男の子が見上げていた。
「あのね?このあたりに……、こーんな顔した女の人いないかなあ?」
「ぷっ、あはははっ!なにそのかお!鬼みたい!」
「うんうん、すぐ怒るから鬼みたいなの!でもすごく優しい人だよ」
「うーん、ぼくのおかあさんに似てるかも!」
密集している集落地は、こんなにも笑顔が近くにある。
ここで立ち話も悪い気はしなかったけれど、日が暮れる前に見つけ出したい。
男の子の頭をそっと撫でて他を尋ねようとしたとき、目の前の長屋の扉がガラガラと開いた。
「こらっ!まったくあんたはどこ行ってたの!寄り道せず帰ってきなさいっていつも───………」
……この人だ。
そう思ってから挨拶を考えるようになったわたしは、少しだけ大人になったように思う。