奈落の果てで、笑った君を。
でも上手く言葉にできない瞬間は今みたいなときで、そのために京へ行って着物を取ってきたのだ。
「……あん…ったっ」
「わ…!」
わたしはあなたの息子さんじゃないよ?
娘でもなくて、家族でもないというのに。
勢いよく抱きしめられた温もりは、それとまったく同じものに感じた。
「その着物っ、まだ着てたのかい…っ」
「…いちばんのお気に入りだよ」
ただいま、ただいま。
いろいろ大変だったんだよ。
たくさん走って、そのぶんたくさん転んで。
けれどいつだって、あなたから貰った着物と銭貸が助けてくれた。
「おばさん、ちょっと太った?」
「うるさいわっ!あんたはぜんぜん変わらないね…!!でも…、あの頃よりずっとずっと凛々しくなった」
ニカッとわたしらしい笑顔を向けると、涙を拭った女は優しく微笑んだ。
「ねえおかあさん、このおねーちゃんだあれ?」
「…あんたのお姉ちゃんよ」
「え、ぼくのおねーちゃん?」
この男の子は、あのとき背中におぶられていた赤ちゃんだったんだ…。
誰もが成長していく。
時間は、留まることなく流れてゆく。