奈落の果てで、笑った君を。
「まったく。一丁前にまたずいぶんな若い美丈夫を連れちゃって!」
「わたしの夫なの!」
「…はじめまして」
「あらあら!なによ~、京で男見つけてくるなんて相変わらず生意気じゃないの」
わたしが帰る場所は徳川ではない。
今はもうそこまでの意味を成さない、あの大きなお城ではなくて。
京ではたくさんの仲間たちと過ごした思い出ばかりの屯所。
この江戸では、人情あふれる集落の、ひとつのお家。
そしていちばんは、尚晴がいるところ。
わたしの帰る場所はその3つで十分だ。
「あんたは生きるって…、ぜったい生きて帰ってくるって、信じてたわ」
「…うん。生きるよ、わたしは」
「…もう、本当はいつも心配してたんだから。……おかえり」
「────ただいまっ!」
たくさん、たくさん話そう。
わたしが今まで見てきたものを。
そこで知ったことを。
出会った人たちのことを。
今もわたしの隣にいる、愛する人と一緒に。
でもまずは名前を聞かなくちゃ。
ううん、人に聞くときは自分から名乗るものだよね。
わたしは、
わたしの名前はね、
忽那 朱花です───って、とびきりの笑顔で。