奈落の果てで、笑った君を。
「呼び方だけ変えたところで、そんなものは男装とは言わない」
「だんそう?」
「どんなに“俺”と言おうが無意味だと言っているんだ」
「あっ、ぼくのほうがいいの?」
「………」
それは自分にとっては心底どうでもいいことだった。
己を指す言葉なんて、気分でコロコロ変えているだけのようなもの。
「…わたし、だろう」
「わたし?そのほうがいい?」
胸元、帯が緩んではだけた着物。
そんなわたしを見下ろした男は、少しだけ視線を逸らした。
しかし何かに気づいたのか、また戻す。
「っ!首、血が出ている。…足もボロボロだ」
「わ…!」
勢いよくしゃがまれたと思ったら、断りもなく首に触れてきた。
なにをするんだろうと見つめていると、男は自分の着物の袖をビリビリと破いてまでわたしの首に巻いてくれる。
「ちょっとだけピリピリする」
「当たり前だ。…浅くて助かったな」
深いと、きっと死ぬんだ。
あの棒は、そうやって人を殺すもの。