奈落の果てで、笑った君を。
でも、これだけは自信があることがひとつだけ。
ぼくのほうが尚晴よりも笑顔が上手だ。
「それから…“わたし”、だ」
「あ、わたし!」
こくりと、困りつつも晴れ晴れとした顔でうなずいてくれる。
なんだか話しているだけで元気が出てきた。
むくりと起き上がると、「まだ寝ていたほうがいい」と言いながらも背中は支えられた。
「あのね、わたし逃げなくちゃいけないの」
「…何からだ」
「えーっと、とくが───」
忽那くん、と。
襖の前、優しい音が聞こえた。
「お粥ができたよ。そろそろ起こしてみてはどうかな」
「あ、ちょうど目を覚ましたところなんです」
ススス、
静かにずらされた先には、とても人の良さそうな男性が立っている。
けれどわたしは彼が手にした土鍋から香った匂いに釘付けだった。
「いい匂いする!それなあに!」
「朱花…!急に立ち上がると危ないだろう」
「……ん?」