奈落の果てで、笑った君を。
「でも、良かったんじゃない?」
しかし本題はこっちだったかのように、話題をコロッと変えてきた。
「…なにがですか」
「佐々木さんが留守中で。ほら、例の君が拾ってきた女の子のこと」
そう、ちょうどここ数日間、与頭である佐々木 只三郎は屯所を出ていた。
それは江戸へ向かったため。
江戸城が火事に見舞われたとなれば、その下に働く彼が向かわないわけがない。
江戸幕府が立てた組織───それが俺たち見廻組なのだから。
「手放すのは簡単だろうけど、逆に変な情を持たれたら厄介だよ尚晴」
「…わかっています」
そうにはならないことだけは、なぜか俺は確信していた。
あいつは、朱花は、そういうのじゃない。
そういった類いの感情など知らない、考えもしない人間なのだ。
そんなものが薄っぺらく感じてしまうほど、彼女はまず目に入ったものすべてに惹かれるような。
きっと早乃助さんだって関われば実感するはず。