奈落の果てで、笑った君を。




刀を向けられた瞬間、剣先が喉に触れた瞬間、あいつは恐怖より先に興味が湧くんだ。

なんとも不気味な話だろう。



「…俺は不逞(ふてい)浪士に絡まれていたところを救ったまで。見廻組として間違った行動はしていません」



もしあの場面に遭遇していたのが俺ではなく早乃助さんだったとしても、きっと結果は同じだった。

ただ立場が逆だった程度。



「ってことは、あの子が回復したら帰すってことでいいんだね?」


「………」


「あら?あららー?」


「…黙れ」


「うっわ、怖すぎて魂がまろび出そう」



あの笑顔は、罪だ。
あの無邪気さは、罪だ。

何にも染まらぬ、何も知らぬ、生粋たる純粋さ。


椿は香りがない花として有名だ。

花なのに香りがないなど、おかしな話だろう。


俺は朱花にはそんなものを感じた。
朱色の花を咲かせる、椿のようだと。

けれど“椿”と断定してしまうのは彼女らしくないと思い、朱花と名付けた。



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