奈落の果てで、笑った君を。
「でもさ尚晴、ハツネちゃんはどーすんだい」
「…あれは親同士が勝手に意気投合しているだけですから」
「うっそだー。しょっちゅう逢瀬、重ねてるみたいで」
そんなもの俺だって無視していいならそうしたい。
けれど、ハツネの家は俺よりも上級な旗本。
断ればどうなることか分からず、だからこそ親の命令だった。
「昨日も“尚晴様、尚晴様”って屯所に来ましたけど?だから尚晴様は死にましたって言っておいたよね」
「………」
「そしたら本当に泣いちゃうんだもん。やだもー」
この男と真面目に会話を交わしたことは今まであっただろうか。
それを期待するだけ馬鹿を見るのは自分な気がするため、こうして風呂にも一緒に入りたくなかったのだ。
「まあ後半は嘘なんだけど。でも、一応は許嫁(いいなずけ)なんだろう?」
逃げられないトドメを刺された気分になり、今度は俺が顔に湯を浸けた。