奈落の果てで、笑った君を。
「まだちょっとダルくて、きつい…かな?」
「…そうか。なら、もうしばらくはここに居ないといけないな」
「うん!」
佐々木さんはいつ頃帰ってくると言っていたか。どこかで天気が大荒れて、数日伸びやしないだろうか。
できればそうなって欲しいものだ。
ここは女人禁制というわけではない。
客人としてしょっちゅう出向いているし、たまに妻を連れて案内している隊士だっている。
噂で聞いたが新撰組は厳しい規律を作っているらしく、形でしか武士になれないというのも憐れなものだ。
「水があったかい……!尚晴!すごいっ、すごいよ…!」
そして湯を浴びせたとき、そこでも朱花にとっての“だけ”があった。
見張りをしていた俺にまで届いてくる喜び。
「尚晴は何歳なの?」
「…18だ」
「18!わたしはっ、……なんさい?」
「……14…、いや15くらいか」
「15!」
自分の年齢すら知らぬ、と。
屏風(びょうぶ)で仕切りを作ってしまうと、ひとりでは十分の広さだった4畳半の一室はいっきに手狭になる。
その夜は寸前まで賑やかな笑顔を聞きながら眠りに入った。
それから少女の体調は着々と回復し、数日が経った頃。
────朝、朱花の姿は消えていた。