奈落の果てで、笑った君を。
青年の葛藤
「雪……溶けちゃった」
「もう3月になったからな。次は春が来る」
毎日、毎日。
庭を彩っていた純白を確認し、どんどん薄くなってゆく日々を見つめていた。
そしてとうとう湯上がりの襦袢姿で部屋へ戻る途中、最後まで残っていた雪だるまが消えてしまっていることに気づく。
見張りとしていつも風呂場の前に立ってくれている尚晴は、しゅんと視線を落としたわたしの隣に移動した。
「湯冷めしてしまう。部屋に戻ろう」
「…うん」
冬の次は、春がくる。
春の次は夏がきて、その次は秋、そしてまた冬。
それがこの国特有の四季というものらしく、これは最近よく短歌を教えてくれる只三郎から学んだことだった。
「尚晴、ずっと思ってたんだけど…どうしてここに壁なんか作るの?」
「…屏風のことか。これは……万が一のときの…ためだ」
「まんがいち?って?」
「……夜は…危ないんだいろいろと」