クールで一途な後輩くんと同居してみた
💛告白






「おとーさんっ! 緋織ね、またかけっこ一番だったよっ!」



 バサバサバサバサ――ッ!


 お父さんの部屋を訪ねるときは、いつだって何かを報告したいときだった。


 勢い余って揺れた本棚から本が落ちていく。


 私は謝りながら戻して、お父さんに話の続きを喋るんだ。



「それとねっ、テストも百点だった!」



 見て! と突き出したテスト用紙。


 お父さんはそれを受けとった後、大きな手のひらで頭を撫でてくれる。



「素晴らしいですね。本当にキミは……才能の塊だ」



 笑顔の裏に隠されたものを気付くには、私はまだ幼くて。


 お父さんにとって『才能』がどれだけ重要な言葉なのか、考えもしていなかった。



 だから私は、お父さんが死んだって理解したとき。


 あ、私はお父さんの生きる理由にはならないんだって――漠然と思った。



 悲しいはずなのに、涙は出ない。


 心にぽっかりと穴が空いた、そんな感じ。


 お葬式もぼんやりしていたら終わっていた。


 隣でお母さんが泣いているのを見て、私は自分が意外と薄情な人間であることを知った。


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