クールで一途な後輩くんと同居してみた


 薄暗い帰り道に人通りはない。


 虫達の合唱が静けさを紛らわせてくれる。


 早く、この苦しさから解放されたい。



「スイくん、今聞いてもいい?」



 裾を摘まんで引き留める。


 今聞いて、受け入れて、ちゃんと切り替えるよ。



「緋織先輩って、鈍感ですよね」

「……そうなのかな。わかんない」

「だって俺の好きな人なんて、緋織先輩以外全員知ってます」

「全員? 大ちゃんとかも?」



 乾いた笑いと一緒に。冗談として言ったつもりだった。



「知ってますよ」

「……えっ」



 あれっ。


 そうなの?


 冗談を返されたわけではなさそう。


 大ちゃんでわかることなら、しぃちゃんはもちろんわかるよね。


 うそ、わかってないのはほんとに私だけ?


 ……あ、もしかしたら。


 わかりたくないから、わざと気付かないようにしてたのかもなぁ。


 だって本当は、聞きたくなんかない。


 聞かないと私は何も変われないから、聞くしかないだけなんだ。



「緋織先輩、こっち向いて」



 くい、と顎を持ち上げられると、優しい笑みを浮かべるスイくんと目が合う。


 目頭が熱くなるのをぐっと堪えた。



「俺、結構わかりやすいんですよ」



 私の手が誘導されたのは、スイくんの胸。


 手のひらに伝わる振動が……早い。


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