クールで一途な後輩くんと同居してみた


 スイくんは私の手を取って、指をゆっくりと絡ませてきたのだ。


 握手、とはちょっと違う。



「……、……?」



 何度まばたきしても起きた光景は同じ。



「今はまだ、何もわからないと思いますけど……いつか、これに何か感じてくれたら嬉しいです」

「なにしてるんだろう……って、今は感じてるよ」

「……ふ、そうですか」



 スイくんは笑った。


 実を言えばそれが初めて見る、彼の笑う姿だった。


 きれい、だなぁ。


 スイくんに、もっと笑ってほしい。


 怒らせたくない。私にガッカリしてほしくない。


 だってスイくんは、私を置いていかないって言ってくれたから。


 頼りになる人だって思われたい。


 かっこいいから、なんていうのは建前で。


 本音は――私のそばから、離れないでほしいから。


 だけどそれは私らしさじゃないと思うんだ。隠しておくのが正解なんだよ、たぶん。



「……もうすぐ、おばさんが帰ってくる時間ですね。ご飯の準備でもしておきましょうか」

「あ……そうだねっ。私、洗濯物取り込んでこなくちゃ!」



 パッと同時に離れた手には、物足りなさがこびりついていた。


 バカだなぁ。スイくんをほしがって後悔するのは私だよ。


 スイくんにも失礼だ。


 スイくんを代わりにするのは、絶対ダメだって。


 ね。お願い。


 わかってね……緋織。






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