クールで一途な後輩くんと同居してみた
――あ。感じること、あった。
私、スイくんが手を繋いでくれるの……普通に嬉しい。
嫌いな人にはこんなことしないだろうし。
好かれてるかもって、懐かれてるかもって、まだどこかに行くことはないかもって、思えるから。
でもこれはスイくんのほしい感想なのかな?
言ってもいい感情なのかな。
思考がまとまってくれなくて、判断が難しい。
「俺は、知りたいんです。緋織先輩のこと、色々」
まっすぐ見上げられて、視線が交わる。
刹那――時が止まったみたいに、辺りの物音が消えたような気がした。
代わりに体内の心臓の音が、血の巡る感覚が、うるさいくらいはっきり響く。
「ナルセ……センパイからも聞かされたことはありましたよ。でも俺は自分で緋織先輩から聞いたことを信じたいし、俺を信じた緋織先輩から教えてもらいたいんです」
あのね、スイくん。
実は、私も私のこと、わかんないんだよ。
ずっと心に蓋がされてるみたいな、押さえ付けられてる感覚があるんだ。
怖い、んだよ。
感情って、楽しいことばっかりじゃないでしょ。
そんなの嫌なんだよ。
楽しいことだけ考えてたいんだよ。
「えへ、スイくんが笑ってくれたら教えようかなっ」
口をついて出た言葉は、どうしても私の全部ではなかった。
「……ん。ならまずは、好きな食べ物からお願いします」
スイくんの優しい微笑み。
安心感で体から力が抜ける。