クールで一途な後輩くんと同居してみた


 ちょっと引っ張るみたいに手を自分のお腹に近付けると、スイくんはゆっくり立ち上がった。



「好きな食べ物は、ドーナツ!」

「ドーナツ。いいですね」

「美味しいよねっ!」

「ですね。……ふ、かわい」



 靴を脱ぎながらクスッと笑みをこぼすスイくん。日常の動作と自然な笑顔が合わさった光景は、切り取って絵画にできそうだ。


 いつまでスイくんが一緒にいてくれるのかわからないけど、こうしていられる時間は大切にしていきたいと思う。


 ずっとじゃないからこそ、丁寧に、壊れないように。


 スイくんには好きな人がいるんだ。私がずっと近くにいたら邪魔になっちゃうなんて容易に想像できる。



 ……誰、なんだろう、なぁ。



 知ったところで、どうにかするわけでもないのにね。



「ドーナツ、今度一緒に買いに行きましょう」

「えーっ! やった! スイくんはどんなのが好き?」

「フレンチクルーラー、とか」

「あ! 私も好き!」

「好き、なんですか」

「好きだよっ!」

「……俺もです」



 スイくんと手を繋いで歩くのは嬉しいんだけどね。


 でも、これは本来スイくんに対して抱える感情ではないって、わかってるんだ。


 私が手を繋げて嬉しいのは、スイくんじゃないんだろうなぁ……って。




 ……お父さん、なんだろうなぁって。






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