クールで一途な後輩くんと同居してみた


 パタン。ドアを閉める。


 深く、深呼吸をして。



 ……び、びっくり、した。



 自分の胸に手を当てて、いつもより多い心拍数を確認した。


 ただ抱き付かれるんじゃなくて、あ、足が。


 それに声がいつもより柔らかくて、変な感じだった……。



「ふあぁ……おはよぉ緋織……」



 大きなあくびとともに、お母さんが部屋から出てきた。


 スイくんの部屋の前に立つ私を見て不思議そうにしている。



「あ、お、お母さん! おはようっ!」

「ん~……? スイくん起こしてたの?」

「うん! ラジオ体操、一緒にやりたいって誘ってくれたから」

「あぁ、いいわね。お母さんも一緒にやろうかな」

「や、やろやろっ!」



 笑顔を返したら、お母さんも微笑んでくれた。


 顔洗ってくるわね、と階段を下りていく背中を見送っていると。



「緋織先輩」



 すぐ後ろから声が降ってきて、肩が跳ねる。


 恐る恐る振り向いてみたら、そこにはクールな表情のスイくんがいて。


 あ、よかった。なんて安堵に包まれた。



「スイくん! ラジオ体操、お母さんもするって!」

「あ……はい」



 普段と変わらない薄い反応。変わらないことが、私にとっては安心材料になっていく。


 なのに、スイくんはちょっと私から目をそらす。



「あの、さっきは驚いてとっさに謝ったんですけど、撤回します」

「……なんのこと?」

「抱き締めたことです。俺、悪いと思ってないんで」

「え」

「寝ぼけてたとしても、したくないことはしません」



 だから、とスイくんは続けた。



「――なかったことにしないで。ちゃんと意味、考えてください」



< 57 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop