クールで一途な後輩くんと同居してみた
パタン。ドアを閉める。
深く、深呼吸をして。
……び、びっくり、した。
自分の胸に手を当てて、いつもより多い心拍数を確認した。
ただ抱き付かれるんじゃなくて、あ、足が。
それに声がいつもより柔らかくて、変な感じだった……。
「ふあぁ……おはよぉ緋織……」
大きなあくびとともに、お母さんが部屋から出てきた。
スイくんの部屋の前に立つ私を見て不思議そうにしている。
「あ、お、お母さん! おはようっ!」
「ん~……? スイくん起こしてたの?」
「うん! ラジオ体操、一緒にやりたいって誘ってくれたから」
「あぁ、いいわね。お母さんも一緒にやろうかな」
「や、やろやろっ!」
笑顔を返したら、お母さんも微笑んでくれた。
顔洗ってくるわね、と階段を下りていく背中を見送っていると。
「緋織先輩」
すぐ後ろから声が降ってきて、肩が跳ねる。
恐る恐る振り向いてみたら、そこにはクールな表情のスイくんがいて。
あ、よかった。なんて安堵に包まれた。
「スイくん! ラジオ体操、お母さんもするって!」
「あ……はい」
普段と変わらない薄い反応。変わらないことが、私にとっては安心材料になっていく。
なのに、スイくんはちょっと私から目をそらす。
「あの、さっきは驚いてとっさに謝ったんですけど、撤回します」
「……なんのこと?」
「抱き締めたことです。俺、悪いと思ってないんで」
「え」
「寝ぼけてたとしても、したくないことはしません」
だから、とスイくんは続けた。
「――なかったことにしないで。ちゃんと意味、考えてください」