クールで一途な後輩くんと同居してみた
スイくんは涼しげな表情で爽やかに笑い、
「緋織先輩の話ならなんでも聞きたいです」
って、私の手を取った。
――ドクン。
心臓が大きく脈打つ。
離さないと、またスイくんとお父さんの境目がぐちゃぐちゃになっちゃう。
スイくんのことをスイくんとして見られなくなる。
だから離さないといけなくて、離さないと……。
心の声とは裏腹に、私は強く握り返してしまっていた。
「……! ふ……このまま帰りますか」
「…………うん」
離したくない。
繋ぎ止めていたい。
のろく足を進める私を、スイくんは急かさなかった。
ゆっくり、一歩ずつ。
家までの約五分をなるべく遠ざけるみたいに。
それは単に話すことを整理する時間がほしかっただとか、心の準備がしたかっただとか。
言い訳はいくらでも思い付いたけど、ぴったり当てはまるのは一つしかないことをわかっていた。
スイくんとの時間を、もっとずっと制限なく過ごしていたい。
ただそれだけだった。