クールで一途な後輩くんと同居してみた






「――――それで、スイくんみたいな人がお父さんだったらいいなって、お父さんの代わりになってくれないかなって、ずっと考えてたの」



 だからごめんなさい、と。


 緋織先輩が俺を男として見ないのは、彼女にとって俺が父親のような存在だったから。


 そうやって、俺は遠回しにフラれた。


 あぁ……だからか。


 父親に恋心なんて、不自然なことこの上ない。


 今までの違和感が全て納得に変わっていく感覚がした。



「っ……ごめん、ごめんなさいっ……。気持ち悪いよね、こんな、っ」



 緋織先輩からボロボロと落ちる大粒の涙。


 父親のお葬式で泣かなかった彼女が、俺への謝罪で泣いている。


 どうして……。



「そうですね。俺は緋織先輩のお父さんではないですし、代わりにもなれません」

「っ……」

「でも緋織先輩がそんな俺を望むのであれば、そう思っていてもらっても構いません」

「えっ……?」



 恋人じゃなくても。


 緋織の心の支えになれるなら、どんなことだっていい。



「だっ……だめだよっ!」



 強く首を振る緋織先輩。



「置いていかないでほしいって、ずっとそばにいてほしいって、欲張っちゃうよ……っ!」

「いいですよ。ずっと一緒にいます」

「むりだってば、」

「できますよ」

「なっ、なんで言い切っちゃうの」

「それは、だって……」



 俺が緋織先輩のこと……。


 もっと困らせるだけだから、はっきり言葉にしない方がいいか。


 だけど最後くらいはそれらしいことを言わせてほしい。



「俺だって緋織先輩がそばにいてくれたらいいなって、思ってるからです」



< 65 / 138 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop