クールで一途な後輩くんと同居してみた
この場でも、きっと俺は部屋を出ていくべきなんだ。
ただ、こんなチャンス滅多にないと思ってる俺もいて。
天秤がチャンスに少し、傾いた。
「あの、お父さん……旦那さんってどんな人だったんですか」
背中合わせに問うてみる。
表情は見えないものの、小さく笑みがこぼれた気配がした。
「あれよ、メンヘラってやつ」
「めん……」
「なんか嫌なことがあったらすぐ落ち込んでね、手を焼いたわよ」
「あ……そうなんですね」
「こっちが必死で食い止めてるっていうのに、あっちはずっと言うこと聞かなくて……あっさり一人で死なれちゃったわ」
懐かしい思い出……というには重い話だった。
おばさんはいつもさっぱりしているから言うことも軽く感じそうになるけど、故人の話が軽いわけがないのだ。
「だから緋織には、辛い想いばっかりさせてるのよね……」
母親として、子供のことを一番に考えて。
毎日夜遅くまで仕事をして、生活を保って。
だったら休日くらいは、それ以外のことを一人で考えたいのだろう。
「緋織のこと、よろしくね。スイくん」
同じことを前にも言われた。
ただ仲良くしてほしいというだけじゃない、色々なものが詰まった『よろしく』。
俺はおばさんに期待されているんだ。
緋織先輩を支えるための一人として。
「……はい」
自信もないのに返事をした。
フラれたと思ったら好意のようなものを向けられている現状。
彼女に対する態度の正解はまだ見えてこない。