クールで一途な後輩くんと同居してみた


 帰ってきた緋織先輩と駅までの道のりを歩く。


 学校が近い分、駅は少し遠い。スーパーは徒歩でいける距離だけど、外食に適した店は徒歩では厳しいので電車を使うことにした。



「ラーメン、ラーメンっ」



 緋織先輩は歌いながら弾むように俺の半歩前を進んでいる。


 昼食には塩ラーメンをご所望らしい。汗をかいて疲れた体に塩分を補給、といったところか。



「後はチャーハンと、餃子と~」



 え、それも頼む気なの?


 運動した後とはいえ、その細い体のどこにそんな量が入る余地が……?



「あ、多いって思った!? 久々に外で食べるから、ちょっと舞い上がっただけだよっ!?」

「いっぱい食べる人、いいと思います」



 ちょっと恥ずかしそうに振り返ってこられたら、肯定するしか選択肢はない。


 家では抑えているのだろうか。食費とか、ちゃんと気にしてそうだし。


 出る前におばさんが言っていた「お腹いっぱい食べて来ていいわよ」ってそういうことなんだな。



「いいと、思うんだ……?」

「……はい」



 あ、出た。緋織先輩の、喜びが滲んだ上目遣い。


 俺を勘違いさせてくる悪の権化。


 あーくそ、可愛い。


 緋織先輩は歩く速度を緩めて、半歩前から俺の真隣に引っ越してくる。



「スイくん……」

「なんですか」

「よ、呼んだだけ」

「は?」



 この人は俺をどうしたいの?


 一生自分の手元に残して飼い殺したいのかな。はは。


 いいでしょう、付き合います。


 手遅れですみませんね。


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