クールで一途な後輩くんと同居してみた


 冗談で言ってみたけど、この考えはあながち間違いではないんじゃないだろうか。


 緋織先輩は俺を父親の代わり――自分を裏切らない存在として、安心するためにそばに置いておきたい……とか。

 自分に好意を寄せる相手ならば、利用はしやすいから。


 そこまで細かく考えているかは別として、方向性は間違っていないかもな。


 俺はその誘惑に、まんまと乗っかるわけだ。



「ご、ごめん……呼んだ理由は、あるにはあるんだけど……」

「はい、なんですか」

「い、言いにくいからやっぱりいいや」

「いいですよ。なんでも言ってください」



 どんなことがあっても、あなたを肯定する俺であり続けますんで。



「え……と……んん……」

「はい」

「て……」

「て……?」

「手、繋ぎ、たい……」



 おーーーっと。


 これは予想外。



「わかりました。繋ぎましょう」

「えっ、あっ……」



 俺はためらいなく緋織先輩の手を取った。


 そっちがしたいって言ったんだから、もし拒絶する素振りを見せたら死にます。



「安心しますか?」

「…………し、しない、よ」



 ……ん?


 緋織先輩の顔が赤い。目を合わせてくれない。



「緊張してる、よ……?」

「なんで?」



 心からの本音が口から出ていった。


 俺を繋ぎ止めるためなら、そんな演技までしてしまうのか?


 え? これ、演技? これはなに……?


 緋織先輩、俺のこと好きじゃん。俺も好き。


 わからないときは、自分に都合良く解釈するに限るな。


 同時に言いようのない悲しみが襲ってくるんだけど。


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