クールで一途な後輩くんと同居してみた


 クールな男はこんなに心臓をドコドコ鳴らさないと思いますが、どうなんでしょう。


 心臓の音をかき消すのに必死で緋織先輩の顔が見られなくなる。


 絶対今、顔赤い。


 こんなの未練たらったらなのがまるわかりじゃないか。



「は、早く出ましょう、店の回転率を上げるために」

「え、う、うん」



 緋織先輩が俺のことを恋愛的に好き、なんてことは――俺の都合の良い幻想なんだ。


 だってこの間釘を刺されたばかりだろ。



『す、スイくんは、好きな子、変わることってあるのかな……?』



 ほら。


 まだ私のことを好きなのか、と聞かれて俺はなんて答えた?



『変わりませんよ。変わることなんて、ありえません』

『あ……』



 緋織先輩はどんな表情をした?


 がっかり、してただろ。


 その後露骨に距離を取られた。


 でも、次の日にはリセットされて元通り。


 あくまで仲は良好なままで、進みすぎずに……そんな関係を望まれているんじゃないのか。


 だから俺もそれに合わせないといけない。


 幸か不幸か。一生一緒にいたいという願いだけは、同じなのだ。



 ……でも、じゃあ、なんで。



「手なんか繋ぎたがるんだ……」

「はぇっ!? ち、ちが、ちがくない、けどっ、なんでわかっ……!」

「え?」



 振り向いた拍子に緋織先輩と手の甲がぶつかった。


 たまたまぶつかった、わけではなそうだ。


 緋織先輩の腕は、間違いなく俺へ突き出されていたのだから。


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