クールで一途な後輩くんと同居してみた
手を、繋ごうとしてた?
緋織先輩から?
……なんで。
「えっとっ……、外に出よっ、とりあえず!」
肩を掴まれて強制退店。
どう見たって動揺している緋織先輩に、されるがまま押し出される。
「び、びっくりした! スイくんって気配とか感じやすかったりするの!?」
「いや……全然」
そういうつもりで言ったんじゃないし……。
「なんで……」
「ん?」
「なんでそんなに手を繋ぎたがっているんですか」
「そ、それはっ」
緋織先輩は自分の手のひらに目を落とす。
いくらなんでもそれは、関係値としては進みすぎではないのか。
俺が緋織先輩を恋愛感情以外で見ることなんてもうできないのだ。
緋織先輩が問題ないと感じる距離感でも、俺は……。
「あ、あのねっ」
緋織先輩が出した声は、少しだけひっくり返っていた。
「こ、これはまだ完全にわかったことじゃないから、言うべきじゃないかなって思ってたんだけどっ……」
彼女の顔は赤い、気がする。
いや、これも都合良く見えてるだけにすぎない。もうすぐ夏が始まるから暑いだけだ、たぶん。
「わ、私……っ」
――突然、大音量で着信が響き渡った。
犯人は、俺だ。
普段電話なんてしないから、音量の調節ができていなかった。
「あっ……いいよ、出て?」
緋織先輩の言葉を遮ったのは誰だ。恨む。
促されて取り出したスマホの画面に表示された名前は、母さんだった。
母さん、恨む。