見つけたダイヤは最後の恋~溺愛は永遠の恋人だけ~
そんな誤解も解けたある日のこと…
「乃愛さん、でしたよね?すごく頑張ってるのね。目指しているものでもあるの?」
着替え終わった私に、にこやかにそう話しかけてきたのは、安野 公佳(あんの きみか)さん。
ここのクラブには少し前から通っているらしく『公佳さん』て呼ばれてるのをよく耳にする。
長い黒髪に目鼻立ちがはっきりした大人の美人さんで、スタイルも抜群によくて、クラブに来てる女性から憧れられてるっぽいし、私も素敵な人だなぁって思う。
それに素敵なのは見た目だけではなくて。
公佳さんは更衣室で私の事をヒソヒソしてた人達に「みっともない事をしないのが綺麗になれる近道よ?」ってやんわり諭してたっけ。
本当、憧れちゃうよね。
そんな素敵な人に話しかけられたものだから驚いたんだ。
えっと、目指しているもの…か。
「はい。目標があります」
「そうなのね。もしよかったらこれから少しお茶しない?美味しいプロテインドリンクを出してくれるカフェを知ってるの、ふふっ」
美人のウインクは絵になるなぁ、と感心しながら「はい、こちらこそよろしければ」と返事をしていた。
公佳さんの車に乗せてもらい、スポーツクラブから10分ほどで着いたのは、ログハウス調のこぢんまりとしたかわいらしいお店。
「ここのマスター、ボディービルダーで筋肉ムキムキなのよ」
「だからカフェでプロテインドリンクなんですか」
「そうなの。珍しいでしょ?さ、入りましょ」
暖かみのある厚い木製のドアを押すと、期待を裏切らないカランコロンというまろやかな鐘の音が響いた。
お店の中もナチュラルな感じで居心地がよさそう。
「いらっしゃい、公佳」
「お兄ちゃん、お友達を連れてきたわ」
「えっ!お兄さんなんですか!」
「えぇ、そうなの」
「公佳が友達なんて珍しいな」
「あっ、まだお話する前なのにお友達って言ったら乃愛さんに失礼よね」
「い、いえ、こちらこそお友達と言って頂けて光栄です」
「いいコじゃないか。ノアちゃんていうの?」
「はい、桐生乃愛といいます」
「そう、似合ってて可愛い名前だね。公佳をよろしくね」
「こちらこそです」
マスターさんに促された席に着くと、メニューを手渡された。
「えーと、それじゃあ私はプロテインのコーヒーで。乃愛さんは何にする?」
メニューを見ると、プロテインドリンクだけで1ページあった。
すごい!
しかも、どれも美味しそうで迷うな。
「じゃあ…私はプロテインのアーモンドミルクをお願いします」
「はいよっ、ちょっと待っててね」
言葉の後にポージングをして、明るいお兄さんはカウンターの中へ戻っていった。
明るいだけじゃなくて、結構イケメンだよね、モテそうに見える。
そっか、公佳さんのお兄さんだもんね、整っててもおかしくないよね。
「ごめんね、兄のキャラ濃くて」
公佳さんがヒソっと言った。
「いえ、楽しくて素敵なお兄さんですね」
クスリと笑ってしまった。
「あっ、そうそう。乃愛さんて桐生さんていうのね。下の名前しか知らなかったわ」
「でも何で私の名前を?」
「ふふふ、九十九さんに決まってるじゃない」
「九十九さん?」
「あの人、乃愛さんがいないとこでも『乃愛ちゃんが、乃愛ちゃんが』ってうるさいんだから」
「…そうなんですか?」
なんでまた…
あっ!だから仲が良いって思われて色々と嫌味を言われてたんじゃ…
「そうなのよ。…それで、乃愛さんは九十九さんの彼女なの?」
「いっ、いえ、違います!」
ぶんぶんと頭を振って否定する。
「え?違うの?てっきり恋人かと思ってたわ」
「違うんです…あのですね…」
そこへ「ハイッお待たせッ」って、マスターさんがドリンクを持ってきてくれた。
わぁ…お店で飲むなんて初めて。
それにすごく美味しそう!
「ありがとうございます。いただきます」
嬉しくてニコニコしたままマスターさんにペコリと頭を下げた。
「公佳、乃愛ちゃん可愛いな!オレ、タイプだわー」
「ちょっとお兄ちゃん、お客さんをナンパする気?」
「いや、ナンパじゃなくて、マジで可愛いなーって思って。後で連絡先聞いていい?」
「え、あの…」
「ハイハイ、それをナンパって言うのよ。お兄ちゃんはまた後でね」
「おぅ!じゃあ後でね!乃愛ちゃん!」
マスターさんは私に手を振りながらカウンターへ戻っていった。
「ごめんね、兄がうるさくて。…で、乃愛さんは九十九さんの彼女じゃないって話だったよね」
あっ、そうだった!
これはイチからぜーんぶ話さないとだよね…
「あのですね、実は…」
私は横浜での出来事を、スマホに入れた録音の音声データも使いながら公佳さんに話した。
まだ完全に平気だとは言えないけど、この話をすることもあの時の音声を聞くことも、もうすんなりと出来るようになっていた。
「…そうだったの……辛いことを話させてしまってごめんなさい」
「いえ、いいんです。それで目標っていうのが、綺麗になって宏哉を見返してやる!って事で、それで九十九さんが力を貸すと言って下さって」
「そうなのね。そっか、九十九さんは乃愛さんを追ってこっちに来たって訳か」
「や、そんな事ではないと思います。たぶん何かのついでというかたまたまというか…じゃないですかね」
「乃愛さんは、綺麗になって見返したら…旦那さんとどうするの?やり直すの?」
「それが…どうしたいのか…まだわからないんです…」
「旦那さんのこと、好きなの?」
「…わかりません…今でも好きなのか…もう嫌いなのか…」
「じゃあこう考えてみて?…もし旦那さんが綺麗になった乃愛さんに『愛してる、やっぱりお前だけだ』って言ったら乃愛さんはやり直せると思う?…浮気の事実を受け入れて、やり直せる?」
…宏哉が私に「愛してる」って言ったら…
…浮気の事実を受け入れて…
…やり直せるか…
「…無理………やり直せない……」
私は……
裏切られた事を…無かった事にはできない……
一緒にいたら…一生…恨んで…苦しむだろう…
「じゃあ、それが答えなのかもね」
「これが答え…」
「まぁ今すぐ決めなきゃって訳じゃないし、考えも変わるかもしれないけどね。でも…もし、離婚を考えるなら私も協力するわよ。実はあの筋肉兄貴の上にもう一人兄がいるんだけど、そっちが弁護士してるから」
「弁護士…」
私には縁のない職業で、ちょっと臆してしまう。
「さっきの音声を聞いた感じだと、旦那さんはその彼女とは遊びで、乃愛さんと本気で別れる気はないと思うのよね。だから離婚するならビシッと証拠を突きつけて強気でやらないと、きっと乃愛さんが丸め込まれるか、離婚裁判にもつれ込む様な泥沼展開になるわよ」
『離婚』というものの覚悟がまだできていなかった私には、ガンと頭を叩かれた様な衝撃だった。
離婚てそう簡単には進まないんだ…
だから覚悟がいるんだ…
「でも公佳さん、何でそこまで言ってくださるんですか?」
私の疑問に、ふ、と笑顔を見せてくれた。
「…私も乃愛さんを応援したくなったの。いつも頑張ってるあなたを見て私も元気を貰ってるからね。それに何だろう…乃愛さんは手を差しのべたくなるのよね、庇護欲を掻き立てられちゃって」
「あはは…私、頼りないですからね」
自分でもわかってる事で苦笑する。
「ううん、そうじゃないの。何て言うのかしら…素直でいいこで可愛がりたくなるのよね」
「そうなんですか…?」
「ほんとよ。だから、上の兄の他にもエステも紹介するし、スタイル作りのノウハウも教えるわよ、ふふふ」
「ありがとうございます…」
ここは地元じゃないから両親や親しい友達もいなくて、近くにすぐ頼れる人がいない。
そんな私に力を貸してくれる人がいる…
「乃愛さん?…私、何か…」
「すいません……こんなに親身になってくださるのが嬉しくて…こっちに頼れる知り合いがいなかったから…」
溢れてくる涙をタオルハンカチで押さえながら、実家が遠いことなどを話した。
「乃愛さん…いえ、私も乃愛ちゃんて呼ばせてもらうわ。お願いだから私を頼って!」
「公佳さん…」
「乃愛ちゃんてほんとに放っとけないの!私は末っ子だけど姉になった気分よ」
「ありがとうございます…よろしくお願いします」
涙目のまま笑顔で答えた。
それからはスポーツクラブでも九十九さんのいない時に会うと色々教えてもらったり、他の会員さんからも話しかけられることが多くなって、それまで以上に充実し、楽しく頑張れる様になった。
うん、私は変わる。私は変われる。
絶対に負けない。
宏哉にも、葉月にも、自分にも。
「乃愛さん、でしたよね?すごく頑張ってるのね。目指しているものでもあるの?」
着替え終わった私に、にこやかにそう話しかけてきたのは、安野 公佳(あんの きみか)さん。
ここのクラブには少し前から通っているらしく『公佳さん』て呼ばれてるのをよく耳にする。
長い黒髪に目鼻立ちがはっきりした大人の美人さんで、スタイルも抜群によくて、クラブに来てる女性から憧れられてるっぽいし、私も素敵な人だなぁって思う。
それに素敵なのは見た目だけではなくて。
公佳さんは更衣室で私の事をヒソヒソしてた人達に「みっともない事をしないのが綺麗になれる近道よ?」ってやんわり諭してたっけ。
本当、憧れちゃうよね。
そんな素敵な人に話しかけられたものだから驚いたんだ。
えっと、目指しているもの…か。
「はい。目標があります」
「そうなのね。もしよかったらこれから少しお茶しない?美味しいプロテインドリンクを出してくれるカフェを知ってるの、ふふっ」
美人のウインクは絵になるなぁ、と感心しながら「はい、こちらこそよろしければ」と返事をしていた。
公佳さんの車に乗せてもらい、スポーツクラブから10分ほどで着いたのは、ログハウス調のこぢんまりとしたかわいらしいお店。
「ここのマスター、ボディービルダーで筋肉ムキムキなのよ」
「だからカフェでプロテインドリンクなんですか」
「そうなの。珍しいでしょ?さ、入りましょ」
暖かみのある厚い木製のドアを押すと、期待を裏切らないカランコロンというまろやかな鐘の音が響いた。
お店の中もナチュラルな感じで居心地がよさそう。
「いらっしゃい、公佳」
「お兄ちゃん、お友達を連れてきたわ」
「えっ!お兄さんなんですか!」
「えぇ、そうなの」
「公佳が友達なんて珍しいな」
「あっ、まだお話する前なのにお友達って言ったら乃愛さんに失礼よね」
「い、いえ、こちらこそお友達と言って頂けて光栄です」
「いいコじゃないか。ノアちゃんていうの?」
「はい、桐生乃愛といいます」
「そう、似合ってて可愛い名前だね。公佳をよろしくね」
「こちらこそです」
マスターさんに促された席に着くと、メニューを手渡された。
「えーと、それじゃあ私はプロテインのコーヒーで。乃愛さんは何にする?」
メニューを見ると、プロテインドリンクだけで1ページあった。
すごい!
しかも、どれも美味しそうで迷うな。
「じゃあ…私はプロテインのアーモンドミルクをお願いします」
「はいよっ、ちょっと待っててね」
言葉の後にポージングをして、明るいお兄さんはカウンターの中へ戻っていった。
明るいだけじゃなくて、結構イケメンだよね、モテそうに見える。
そっか、公佳さんのお兄さんだもんね、整っててもおかしくないよね。
「ごめんね、兄のキャラ濃くて」
公佳さんがヒソっと言った。
「いえ、楽しくて素敵なお兄さんですね」
クスリと笑ってしまった。
「あっ、そうそう。乃愛さんて桐生さんていうのね。下の名前しか知らなかったわ」
「でも何で私の名前を?」
「ふふふ、九十九さんに決まってるじゃない」
「九十九さん?」
「あの人、乃愛さんがいないとこでも『乃愛ちゃんが、乃愛ちゃんが』ってうるさいんだから」
「…そうなんですか?」
なんでまた…
あっ!だから仲が良いって思われて色々と嫌味を言われてたんじゃ…
「そうなのよ。…それで、乃愛さんは九十九さんの彼女なの?」
「いっ、いえ、違います!」
ぶんぶんと頭を振って否定する。
「え?違うの?てっきり恋人かと思ってたわ」
「違うんです…あのですね…」
そこへ「ハイッお待たせッ」って、マスターさんがドリンクを持ってきてくれた。
わぁ…お店で飲むなんて初めて。
それにすごく美味しそう!
「ありがとうございます。いただきます」
嬉しくてニコニコしたままマスターさんにペコリと頭を下げた。
「公佳、乃愛ちゃん可愛いな!オレ、タイプだわー」
「ちょっとお兄ちゃん、お客さんをナンパする気?」
「いや、ナンパじゃなくて、マジで可愛いなーって思って。後で連絡先聞いていい?」
「え、あの…」
「ハイハイ、それをナンパって言うのよ。お兄ちゃんはまた後でね」
「おぅ!じゃあ後でね!乃愛ちゃん!」
マスターさんは私に手を振りながらカウンターへ戻っていった。
「ごめんね、兄がうるさくて。…で、乃愛さんは九十九さんの彼女じゃないって話だったよね」
あっ、そうだった!
これはイチからぜーんぶ話さないとだよね…
「あのですね、実は…」
私は横浜での出来事を、スマホに入れた録音の音声データも使いながら公佳さんに話した。
まだ完全に平気だとは言えないけど、この話をすることもあの時の音声を聞くことも、もうすんなりと出来るようになっていた。
「…そうだったの……辛いことを話させてしまってごめんなさい」
「いえ、いいんです。それで目標っていうのが、綺麗になって宏哉を見返してやる!って事で、それで九十九さんが力を貸すと言って下さって」
「そうなのね。そっか、九十九さんは乃愛さんを追ってこっちに来たって訳か」
「や、そんな事ではないと思います。たぶん何かのついでというかたまたまというか…じゃないですかね」
「乃愛さんは、綺麗になって見返したら…旦那さんとどうするの?やり直すの?」
「それが…どうしたいのか…まだわからないんです…」
「旦那さんのこと、好きなの?」
「…わかりません…今でも好きなのか…もう嫌いなのか…」
「じゃあこう考えてみて?…もし旦那さんが綺麗になった乃愛さんに『愛してる、やっぱりお前だけだ』って言ったら乃愛さんはやり直せると思う?…浮気の事実を受け入れて、やり直せる?」
…宏哉が私に「愛してる」って言ったら…
…浮気の事実を受け入れて…
…やり直せるか…
「…無理………やり直せない……」
私は……
裏切られた事を…無かった事にはできない……
一緒にいたら…一生…恨んで…苦しむだろう…
「じゃあ、それが答えなのかもね」
「これが答え…」
「まぁ今すぐ決めなきゃって訳じゃないし、考えも変わるかもしれないけどね。でも…もし、離婚を考えるなら私も協力するわよ。実はあの筋肉兄貴の上にもう一人兄がいるんだけど、そっちが弁護士してるから」
「弁護士…」
私には縁のない職業で、ちょっと臆してしまう。
「さっきの音声を聞いた感じだと、旦那さんはその彼女とは遊びで、乃愛さんと本気で別れる気はないと思うのよね。だから離婚するならビシッと証拠を突きつけて強気でやらないと、きっと乃愛さんが丸め込まれるか、離婚裁判にもつれ込む様な泥沼展開になるわよ」
『離婚』というものの覚悟がまだできていなかった私には、ガンと頭を叩かれた様な衝撃だった。
離婚てそう簡単には進まないんだ…
だから覚悟がいるんだ…
「でも公佳さん、何でそこまで言ってくださるんですか?」
私の疑問に、ふ、と笑顔を見せてくれた。
「…私も乃愛さんを応援したくなったの。いつも頑張ってるあなたを見て私も元気を貰ってるからね。それに何だろう…乃愛さんは手を差しのべたくなるのよね、庇護欲を掻き立てられちゃって」
「あはは…私、頼りないですからね」
自分でもわかってる事で苦笑する。
「ううん、そうじゃないの。何て言うのかしら…素直でいいこで可愛がりたくなるのよね」
「そうなんですか…?」
「ほんとよ。だから、上の兄の他にもエステも紹介するし、スタイル作りのノウハウも教えるわよ、ふふふ」
「ありがとうございます…」
ここは地元じゃないから両親や親しい友達もいなくて、近くにすぐ頼れる人がいない。
そんな私に力を貸してくれる人がいる…
「乃愛さん?…私、何か…」
「すいません……こんなに親身になってくださるのが嬉しくて…こっちに頼れる知り合いがいなかったから…」
溢れてくる涙をタオルハンカチで押さえながら、実家が遠いことなどを話した。
「乃愛さん…いえ、私も乃愛ちゃんて呼ばせてもらうわ。お願いだから私を頼って!」
「公佳さん…」
「乃愛ちゃんてほんとに放っとけないの!私は末っ子だけど姉になった気分よ」
「ありがとうございます…よろしくお願いします」
涙目のまま笑顔で答えた。
それからはスポーツクラブでも九十九さんのいない時に会うと色々教えてもらったり、他の会員さんからも話しかけられることが多くなって、それまで以上に充実し、楽しく頑張れる様になった。
うん、私は変わる。私は変われる。
絶対に負けない。
宏哉にも、葉月にも、自分にも。