見つけたダイヤは最後の恋~溺愛は永遠の恋人だけ~
「伊織…乃愛ちゃんを庇ったんだってね、そのケガ」

「…あぁ…庇ったっていうか……乃愛ちゃんを悪く言うなよ」

「そんなこと言うわけないじゃない!…伊織に感謝してる。乃愛ちゃんを守ってくれてありがとう。もし私が伊織と同じ立場だったら、私も身を挺したと思うわ。守ってあげたくなる子だもの」

「あぁ、そうだな。はは…公佳のそういうとこ、変わってないな」

「ありがとう。…それでね、伊織。私、アメリカに行くことになったの、仕事で」

「アメリカ…」

「えぇ、ニューヨークに。あっちの上司がお前も来ないか、って言ってくれて」

「…そっか、良かったじゃん。ニューヨークってことは本社だよな。行きたかったんだろ?」

「うん……それでね、私……伊織も連れて行きたい思ってる」

「…俺を?」

「伊織、アメリカでフィットネスの勉強したいって、ずっと言ってたじゃない。そのためにお金も貯めてたでしょ?」

「あぁ、まぁな」


「実はね…私……上司から結婚前提の交際を申し込まれているの」

「そうか…良かったじゃないか」

「でもね、私……あの時に仕事を選んで…離婚しちゃったけど、私…また伊織と一緒にいたいって思ってる」

「公佳…」

「あの時は私の勝手で別れてしまって本当に申し訳なく思ってた…伊織は待ってるって言ってくれたのに」

「…そうだったな」

「伊織…まだ独身なのは、もしかして…待っててくれてた?」

「……それは……」

「…なんてね…。伊織のケガもあるし、アメリカ行きはすぐにとは言わないわ。…でも…私との事は…もう一度考えてほしいの。もし一緒になれたら…今度こそ、何があっても別れないから」

「公佳…ありがとな」

「申し訳ないけど、返事だけ早くもらってもいい?急だけど…土曜には」

「あぁ、わかった。土曜に返事する。電話でいいか?」

「えぇ、待ってるわ。…じゃ、お大事にね」

「あぁ、ありがとな。気をつけて帰れよ」

「うん」

公佳さんはまたカッカッとヒールを鳴らし、その音は徐々にエントランスの雑踏の中に消えていった。



…しばらくしてから九十九さんが立った気配がして、それから少ししてから頭を上げて見ると、既にこの場を離れていた。


俯いてる私の目から大粒の涙が流れ落ち、じわじわとスカートを濡らしていく。


……あー……だめじゃん、私……

もう誰も…この二人の間になんて入れないじゃない。


バカだなぁ…私……

あの時に九十九さんが言ってた「プロポーズの前に、俺と付き合って下さい、が先だよね」って言葉に夢見ちゃってたよ…

そんなことあるわけないのにね…


それに…相手は公佳さんだもん…

あんなに全てにおいてパーフェクトな女性だもん…

あんなに素敵な人だもん…

こんな私に手を差しのべて応援してくれて…ほんとにお姉ちゃんみたいな人なんだもん…



私も大好きな人だもん…




九十九さんに彼女がいなかったのは…待ってたんだ、公佳さんのこと。
いつ戻ってきてもいいように。


そっかぁ……

じゃあ…私を応援してくれた二人を…今度は私が応援してあげなきゃだね…
お似合いだもん…九十九さんと公佳さん…


私は俯いたままこれ以上何も考えられなくて…力が抜けたまま座っていた。






どれくらいいただろう。
時間の感覚を忘れるほど呆けてた。

もう帰ろう…

スカートの大きな濡れ跡がほどほどに乾いたところで…そのまま病院を後にした。

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