愛は手から零れ落ちる 2nd.
少しすると先生と看護婦さんが病室に来た。
「嶋村 朋美さん?」
「はい。あの先生、壮は・・・どうなのでしょうか?」
「傷が結構深かったので昨晩は緊急手術となりました。抜糸が終われば退院は出来ます。大体10日から2週間はかかるかと思います。」
「そうですか。わかりました・・・」
「嶋村さんは、櫻井さんの彼女さん?」
「はい。」
「櫻井さんのご家族は?」
「いらっしゃいます。 私から連絡しておきます。」
「そうですか。一応、いろいろ手続き等はご本人かご家族になり、緊急連絡先もご家族が基本なとなりますので・・・もうご本人が出来ますけど一応・・・」
「あっ・・・そうですね。わかりました。」
寂しかった。こういう時、家族でないと、何もできない・・・
「あと、入院時に来ていた洋服は警察が持っていきました。念のため、とのことでした。」
「わかりました。」
・・・だから、無かったんだ・・・
2時間が経ったころ、マスターと眞紀さんが病室に来てくれた。
「あっ、マスターも。ありがとうございます。」
「朋美ちゃん、櫻井の具合は?」
「さっきまで起きていたのですが、今寝ています。先生曰く10日から2週間で退院できるってことです。」
「そうか、良かった。」
「あのマスター、櫻井さんのお爺様とかご家族とお会いになったことはありますか?」
「お爺さんはあるよ。櫻井が勤め始めた時に店に来てくれた。」
「そうですか、あの、ご家族に連絡して欲しいって病院から言われたのですが・・・」
「朋美ちゃんはまだ誰とも会っていないの?」
「はい・・・」
「わかった。それなら僕からお伝えしておくよ。」
「ありがとうございます。」
「早い方がいいか・・・やっぱり今から行ってくるわ。」
と言ってマスターは、お爺様のいる不動産屋の店舗に向かってくれた。
私と眞紀さんは病室を出て駐車場に向かった。
「どうしたの? なんか心配事?」
車の中で静かな私を見かねて眞紀さんは声を掛けてくれた。
「あの・・・やっぱり家族でないと、こういう時に何も出来ないのですね・・・」
「あー、病院で何か言われたのね。」
「緊急で手術したけど本当は同意書にサインがいるとか、それは家族でないとダメとか。本当は病状も家族でないと話せないとか・・・」
「そっか・・・」
「私、ずっと家族が居たことないので・・・」
「はやく、櫻井君に家族になってもらわないとね。そういうつもりなんでしょ?」
「私はそうしたいですけど、壮は・・・櫻井君は私より3つ年下だし、まだそんな話にはなってなくて・・・」
「ふーん。でも考えているんじゃないかな。一緒に暮らしているんだし・・・付き合い始めてどのくらい?」
「4ヶ月です。付き合い始めたのと一緒に暮らし始めたのが保々一緒なので・・・でも店で毎日のように顔を合わせていたので、知り合ってからは1年以上になります。」
「そっか、まだ言えないのかな~。もう少し待ってあげたら。」
「はい。そうします。」