愛は手から零れ落ちる 2nd.
次の日、昨日と同じように眞紀さんは私を病院に送り届けてくれた。
私が病院の中に入るのを見届けると眞紀さんは車を発進した。
壮の病室の前に来ると、病室の中から言い合いをする声が聞こえた。
「だから言ったでしょ。水商売なんかするからこんなことになるのよ。」
「それは関係ないだろ。」
「そんなことありません。そんなとこに居るから軽くみられるのよ。これに懲りて辞めなさい。」
「俺は辞めない。お袋にとやかく言われたくない。」
「何言ってるの!」
「おい、やめないか。ここは病院だし、壮はまだ病人なんだぞ。」
「お父様がそうやって壮を甘やかすから・・・」
「あなたはそうやっていつも感情的になる。少し落ち着きなさい。」
「まあ、退院したらしっかり話し合いするわよ。壮、わかった?」
「いゃだね。俺は今の生活を変えるつもりはないから。」
「壮、それとお父様から聞いたのだけどバーにいる女と付き合っているんですって。それも年上の。そんな女とはすぐに別れなさい。私がいいところの女の子を紹介してあげるから。」
「やめてくれ。俺のやることに口を出さないでくれ。こんな時ばかり母親ずらすんなよ。もう帰れ。二度と来るな。」
壮は声を荒げ、傷口が痛むのかウッとうなり声も上げた。
私はその壮の辛そうな声を聞いて持っていたコンビニの袋を落としてしまった。
「そこに誰かいるの?」
カツカツとヒールの音がして、勢いよく病室のドアが開いた。
「誰?」
お母様が私を睨んだ。
「あの・・・」
壮が私を見て慌てた。
「俺が付き合っている朋美だ。結婚するつもりだから、もう俺には構わないでくれ。」
「何言ってるの壮!・・・こんな水商売の女との結婚なんて許しませんよ。」
壮の母は私を睨みつけ、そして私の頬を叩いた。
「お袋、何するんだ!」
そんな壮の声が聞こえはしたものの、私はその場から走り去った。
トイレの個室に入り涙を流した。痛いというより悲しかった・・・なかなか涙が止まらない・・・ずっと個室に籠った。
しばらくすると看護婦さんが飛んできた。
コンコン、トイレのドアをノックすると同時に声がした。
「大丈夫ですか? 具合悪いですか? ドア開けられますか?」
私は慌てて、ドアを開けた。
「すみません、大丈夫です。」
「あー良かった。何分もこのドアが開かないと連絡が入るんですよ。本当にどこも具合悪くないですか? 少し顔が青いような・・・あれ、頬が赤くなってますけど・・・大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。申し訳ありませんでした。」
「お見舞いの方ですよね。お部屋まで付き添いますよ。」
看護婦さんは私が首から掛けている入館証を見てそう言ってくれた。
「いえ、大丈夫です。」
私は看護婦さんにお礼を言って立ち去った。