愛は手から零れ落ちる 2nd.
この後眞紀さんが迎えに来てくれるまでどうしようかと思いながら、彼のいる病室の近くの待合室で隠れるように病室に背をむけて座った。

間もなく、声を掛けられた。
「あの・・・嶋村朋美さんですよね・・・」

ダンディな老人だった。

「あっ、先程病室にいらした・・・」

「壮の祖父です。先程は壮の母があなたにあんなことをして、申し訳ない。」
お爺様は私に頭を下げた。

「いえ・・・」
言葉が続かなかった。

「僕は壮からあなたのことを聞いています。壮は子供の時から僕には何でも話してくれた。今も、あなたのこといつも嬉しそうに話しているんですよ。」

壮が私のことを人に話をしているとは思わなかったので驚いた。

「朋美さん、僕は二人のこと応援しているから安心なさい。僕が母親を説得しますからね。ちょっと壮がケガをして動揺しているだけだから・・・大丈夫。それにもう帰ったから、病室に、壮のところに行ってあげて。」
お爺様は私に優しく微笑んでくれた。

「はい。ありがとうございます。」
私はお爺様に頭を下げて壮のいる病室に向かった。


ノックをしてそっと病室のドアを開けた。
壮は私だとわかると身体を起こそうとした。

「朋美!」

「壮・・・」

「朋美、すまない。」

「壮・・・お爺様が私に声を掛けてくれたの。もう病室に入っても大丈夫だよって・・・・・・」

「そっか・・・朋美、こっちに来て。」

壮は、母が叩いた頬をなでてくれた。

「ゴメンね・・・」
壮は痛いはずなのに私を抱きしめた。

私の頬に涙が流れた。

「壮、無理しないで寝て。痛いんでしょ。」

「痛い・・・息が出来ないほど痛い・・・さっき大きな声出したから痛くて・・・」

「無理すると退院が遅くなるよ。だから無理しないで。」

「ああ、そうだね。一日も早く退院したい。」

「そうだよ。はやく二人でまた生活しようよ。」

「そうだね。そうしたい。」

「壮、また明日来るからゆっくり寝てね。」

私は壮にキスをして部屋を出た。
涙が、また涙が止まらなかった。
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