愛は手から零れ落ちる 2nd.

私の顔を見た眞紀さんが驚いて、駐車場に車を止めたままで話を聞いてくれた。

「朋美ちゃん、大丈夫。元気出して。櫻井君結婚するつもりって言ってくれたんでしょ。ちょっと痛い目にはあっちゃったけど、良かったじゃない。」

眞紀さんは私を目いっぱい明るく慰めてくれた。私は眞紀さんの気持ちは嬉しかったが慰めを素直に喜べなかった。



事件から1週間がたった。
壮は順調に回復していった。それでも吉川が捕まったとの情報は入らず、相変わらず緊張の生活は続いた。


それから1週間後、退院の許可が出た。丁度入院して2週間だった。それでもまだ当分は無理をせず自宅療養をした方がいいとのことだった。

「壮、どうする? マンションに戻る? 」

「まあ、それしかないだろ。でも、朋美はまだ眞紀さんのところに居ろ。」

「何言ってるの、病人を一人にさせられないよ。」

「だって俺、朋美に何かあったら生きていられないもん。」

「そんなの私だって同じだよ。二人で一緒にマンションで暮らそうよ。」

「うーん・・・あのさ、マスターと眞紀さんに相談してくんない?」

「えー、これ以上、迷惑かけられないんじゃない?」

「今更なんじゃない。とりあえず、退院の許可が出たって話して。」

「わかった。」


私は眞紀さんに壮の退院の許可が出たことを話した。

「あー、よかったわね。でもどうしようかしら・・・マンションに帰っても朋美ちゃんを一人で買い物に行かせられない・・・ちょっと旦那と相談するわ。」

眞紀さんはマスターに電話をして相談をしてくれた。


土曜日に退院することにした。その日、マスターと眞紀さんが手伝いに来てくれた。
朋美さんの運転で、4人でマンションに向かった。

マンションに着き、壮をベッドに寝かせた。
そして、4人で話をした。

「あのね、私の元同僚から聞いた話だと、吉川はどうも大阪に移動した形跡があることがわかったの。でもそういいながらもすぐに戻ってくるかもしれないから安心はできない。だから、吉川が捕まるまでは朋美ちゃんはこのマンションから出ないこと。買い物は私か旦那がします。」

「でも、そんなにご迷惑かけては・・・買い物ならネットでもできますから・・・」

「ダメよ。宅急便とかも受け取らないで。もし荷物が届いても下の宅配ロッカーに入れてもらえばいいからね。それも取りに行っちゃだめ。私達が来たら取りに行きますからね。それと警官だと言われてもドアを開けてはだめよ。」

「はい。」

壮が口を開いた。
「あの、マスターも眞紀さんも本当にご迷惑をおかけしてすみません。感謝をいくらしても足りません。僕が不用意に吉川を追いかけたせいでこんなことになって・・・申し訳ありません。でも、もう少しの間朋美のことよろしくお願いします。」

「櫻井君、起きてしまったことはもう仕方ないわ。だからこれからのことをしっかり考えて。朋美ちゃんを幸せにしてあげないとね。」

「はい。僕は元気になったら朋美と結婚します。朋美、いいよな?」

「壮・・・嬉しいです。早く・・・早く良くなってください。」
私はまた涙が出た。

「じゃあ、僕らは帰るけど大丈夫かな? 今日の夕飯と明日の朝昼のご飯の材料は適当に買ってさっき冷蔵庫に入れたからね。」

「ありがとうございます。」

私は玄関で二人に深々と頭を下げた。二人は揃って帰って行った。
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