愛は手から零れ落ちる 2nd.
夕方、壮と二人そろって開店前のバーに行った。
「マスター・・・」
「あー、朋美ちゃんに櫻井・・・揃って来てくれたんだね。」
「はい、ようやく動けるようになりましたので、ご相談とご挨拶もかねて・・・」
「まあ、先ずは全快おめでとう。」
「本当にマスターと眞紀さんにはお世話になってしまって、どれだけお礼を言っても足りないくらいです。ありがとうございました。」
「でももう少しゆっくりしてたら? 今は息子が手伝ってくれているし・・・」
「息子さん、マスターの後を継ぐつもりですか?」
「いゃ、考えていたのと違うって、人の話聞いて対応するのって難しくて無理だって、アルバイトして良かったって・・・ということで、後継ぎいなくなっちゃった。だから櫻井これからも頼むよ。」
「あー・・・なんて言っていいかわからないですけど、僕としては続けられてうれしいです。もしかしたら仕事なくなっちゃうかなって思っていたので・・・」
「そんな心配してたの? でもお前には不動産屋もあるじゃないか。」
「まあ、そうなんですけどね。アレはあれ、コレはこれというか、両方あって僕のバランス取れているというか・・・」
「お前も面白い奴だな。」
「俺、欲張りなんですよね。」
「そうだなー、しっかり朋美ちゃんもゲットしたしなー」
「マスターったら。」
「朋美ちゃんもお疲れ様。看病も疲れるよね。」
「初めてだったので、どうしていいかわからなくて。」
「まあ、ともかく治って良かったよ。それで、いつ結婚するの?」
「朋美がOKしてくれなくて、今ちょっと喧嘩中で・・・」
「えっ? 朋美ちゃん、何でなの?」
「ただ、お母さんとお父さんにちゃんと許しを得てくださいとお願いしただけです。」
「別にいいのにね・・・」
「櫻井、それは朋美ちゃんにとっては大切なことなんじゃない?」
「えっ?」
「婚約者が亡くなった後、その彼のお母さんが朋美ちゃんを拒否して、最後のお別れもさせてもらえなかったって聞いたでしょ。その時に息子を想う母の気持ちを痛い程わかったんだよ。ね、朋美ちゃん。」
「そうです。別にお母さんが悪いわけではないけど、誰かを悪者にしないとお母さんは生きていられなかったんだと思います。その位辛かったんですよ。この間、壮が怪我して病院でお母様が取り乱しているの見て、思い出しちゃって・・・できれば、壮にはお母様と仲良くなって欲しいし、私も仲良くなりたいんです。」
「櫻井、少しガンバレ。朋美ちゃんの気持ちわかってやれよ。」
「・・・ジイちゃんに協力してもらおう・・・」
「お前、もういい大人なんだから自分で頑張れよ。」
「どーしても苦手なモノってあるじゃないですか・・・でも、どうにかします。朋美、少し時間くれ。」
「はい。待っていますから、お願いします。」