愛は手から零れ落ちる 2nd.
櫻井の父は、友田に連絡をして事務所を訪れた。
「友田さん、お言葉に甘えて来てしまいました。」
「櫻井さんようこそ。息子を紹介したかったのですが、今外出しておりまして。まあ、お茶でも飲んでいってください。櫻井さんは、コーヒーと緑茶と抹茶、何が良いですか? お茶うけには羊羹があります。甘いものは?」
「恥ずかしながら、甘いものに目が無いのです。そうですね・・・せっかくですから抹茶いただこうかな。久しぶりです。」
「わかりました。嶋村さん、抹茶2つお願いできますか。」
「はい、お薄、点てさせていただきます。少々お待ちください。」
朋美は、羊羹を切り七宝焼きのお皿に乗せ、黒文字を添えた。
そして抹茶を点て櫻井と友田に出した。
「あー、おいしい。とてもおいしい。」
「そうでしょ、たまに彼女に点ててもらうんですよ。」
「ちゃんとお習いになったんでしょうな。」
「施設の施設長のお母様が教えてくれたと言っていました。」
「施設育ちなのですか?」
「ご両親は子供の時に亡くなられて、ご親戚にも恵まれずにずっと施設暮らしだったそうです。その後はご自分で努力されて、区役所に勤められていました。僕はその時から存じているのですが、若くてもしっかりしておられて、感心していました。そして勉強もされて公認会計士の資格も取られた。立派ですよ。」
「苦労されているのですね。でも、そう見えない。とても優しそうで明るい感じがします。」
「人には言えないようなつらい目にも合っているのですが、それを乗り越えて今があるのです。礼儀作法はもちろんのこと、考え方も人との接し方とかも申し分ない。僕は彼女のフアンですよ。彼女には幸せになって欲しいと僕は思っています。」
「友田さんのお墨付きなら間違えない。妻に話します。」
「そうですか。よろしくお願いします。」
「友田さん、いかがでしたか?」
「櫻井君、君の仰せの通りにいたしましたよ。まあ、僕としては嘘ではないので無事演技切ったというところでしょうかね。」
「申し訳ない。妙な事をお願いしてしまいました。」
「面白かったですよ。でも、これからどうするのですか?」
「そうですね・・・どっちを先にするか・・・」