愛は手から零れ落ちる 2nd.
そんなことがあってから約1週間後、友田事務所で昼休憩をとろうとしていたその時、事務所のドアが開いた。
「あの・・・」
「いらっしゃいませ・・・あっ、壮・・・櫻井君のお母様・・・」
「嶋村さんですよね。」
「はい。」
「あの、先日は大変申し訳ないことを・・・」
「いえ・・・あの、ここでは何ですから、中へ・・・」
「嶋村さん、今お昼休みですよね。ちょっと私に付き合っていただけないかしら。」
「あっ、はい。準備してまいります。」
私は友田所長に了承を得て事務所を出た。
お母様はスタスタと歩いていく。私は数歩下がって付いて行った。
「嶋村さん、お昼まだでしょ。」
「はい。でも・・・」
「ここはね、壮と子供の時に来た店なの。付き合って。」
「あっ、はい。」
強引な母親の後に付いて店に入った。この店は、昔ながらの喫茶店のような重厚なテーブルと椅子のある店だった。
「壮はね、ここのオムライスが好きだったのよ。それでいいかしら。」
「はい。」
お母様はオムライスランチを頼んでくれた。
「嶋村さん、もう一度謝ります。先日はいきなり叩いてしまってごめんなさい。壮がケガをしたって聞いて気が動転してしまって・・・本当にごめんなさい。」
「いえ、もう謝らないでください。」
「今日はね、謝ると同時に、あなたのこと知りたくて来ました。」
「はい・・・」
「なんだかね、うちの男ども3人が揃いも揃ってあなたのこと好きみたいで、私それであなたにやきもち焼いちゃって。でもどこがそんなにいいのか知りたくなって・・・」
私はあまりの言葉に驚いた。しかし、お母様はストレートな人だと少し可愛く思った。
「私は大した人間ではありません。施設育ちですし、人との関わりも少ない平凡な人間です。」
「嶋村さん、私あなたがバーで働いている水商売の女としか思っていませんでした。それが違うと主人から説明をされて・・・でも少し信じられなくて。あの、出来たらあなたのこと詳しく教えてください。」
「・・・身の上話をすればいいですか・・・」
「はい。出来れば全て・・・」
私はちょっとあきれた。でも、全部お話ししようと思った。
「わかりました。お話しします。」
その時、オムライスランチが運ばれてきた。
「嶋村さん、せっかくだから食べてからにしましょう。温かいうちに召し上がって。」
「はい。ではいたただきます。」
私はお母様が食べ始めたのを見てから、オムライスに手を付けた。
「私ね、子供を産んではみたものの、その子供とどう接していいかわからなくて、壮には寂しい想いをさせたと思います。唯一連れて来るのはこの店くらいで。それも一度連れてきたときにこのオムライスをおいしいと壮が言ったから、それでここばかり連れてきました。ダメな母親でね。あとはお父様にお願いしてしまったの。」
「・・・櫻井君は今でもオムライス好きですよ。」
「そうなの?」
「はい。たまに作ってって言われます。今日ここでこの味に触れることが出来て良かったです。」
「今でも好きなの・・・」