愛は手から零れ落ちる 2nd.
食事が終わり、コーヒーが運ばれてきた。
「嶋村さん、ではお教えいただけますか。」
「はい。私は子供の時、まだ1歳になっていないときです。火事で両親を亡くしました。私は母親が抱きしめていてくれたおかげで助かりましたが、引き取ってくれる人がなく、施設で育ちました。施設には10名くらいの子供たちが暮らしていましたが、特に不便なく生活することが出来ました。女の子が少なかったということもあったのかもしれませんが、その施設の施設長のお母様が私のことを気にかけてくださり、小学生になった頃からお茶やお花、簡単なお料理や行儀作法などを易しく教えてくださいました。両親が残した財産も少しありましたので、その施設から高校まで通わせていただき、短大ですが進学し、同時に一人暮らしを始めました。簿記などを学び、その後市役所に勤めることが出来ました。そして、私が28歳になった時、市役所の上司である部長さんが私に同じ市役所に勤めるバツイチだけどとても優しい男性を紹介してくださいました。少しお付き合いをして、結婚という話になりました。彼もバツイチでしたし、私も親戚が居ないので披露宴などはやらないことに決めたのですが、彼がせっかくだから写真を撮ろうとホテルの写真館を予約してくれました。私はウエディングや色打掛を着させていただき、とても幸せでした。写真撮影の後、そのホテルで豪華な食事を食べ、ハネムーン旅行の話などをしました。そしてホテルを出ました。外は雨が降っており、私が持っていた傘に2人で入り道を歩いていたのです。その時、向こう車線を走っていたバイクが転倒し、バイクが我々の方に滑ってきました。彼は私を突き飛ばし助けてくれたのですが、彼はバイクがぶつかりその衝撃でそのまま運ばれた病院で亡くなりました。私はショックで病院で倒れまいた。そして病院で気が付いた時には彼はもうご家族が引き取られた後で、その後葬式の始まる前に式場に行ったのですが、顔も見ることを許されず、そのまま帰らされました。そして告別式にも出ることを許されませんでした。彼のお母様が私のことを拒否したのです。だから彼とお別れも出来ませんでした。私はせめてもとおもい、彼のお父様にお墓の場所だけ教えて欲しいとお願いしたのですが、お父様は私が次に進むようにとおっしゃって、教えていただけませんでした。そんなことがあり、私は彼も仕事をしていた市役所にも行くことが辛くて、市役所も辞めました。いざ仕事を辞めると次の仕事が見つからず、どうしたものかと思ってフラフラと街を歩いていた時に、今お世話になっているバーの前で足が止まったのです。今まで、そういう店に入ったことはなかったのですが、なぜか入ってみたいと思い、店の扉を開けました。マスターは私をみるなりカウンターに座らせてくれて、話かけてくれました。男の方と話すことも慣れていない私でしたが、マスターは優しく私に話しかけてくれたのです。そして、今お話しした彼の死のことをマスターに告げました。あまりのことにマスターも驚かれ、そして仕事が無いという私に仕事が決まるまででいいから店を手伝ってくれないかと言われました。あくまでも裏方として。私は夜の仕事、水商売なんて考えてもいなかったのでその誘いに驚いたのですが、なんだかやってみたいと思いお話を受けました。そして、バーでの仕事が始まりました。そこで櫻井君と出会いました。初め、櫻井君は怖かったです。若いけどズバズバと私に厳しいことを言うのです。でも、よく考えるとそれは私にとって大切な忠告だったのです。時間が経つにつれ、私は櫻井君のことを気にかけるようになりましたが、櫻井君は私に好きになるなと言いました。しかし、私の住むアパートの契約更新の時、条件の良い物件を櫻井君が紹介してくれたのです。引っ越しも終わり、引っ越しを手伝ってくれた櫻井君に私はお礼として食事に誘いました。その帰り道、櫻井君が私に告白してくれました。私は、驚きもしましたが嬉しくてうれしくてその申し出を受けました。それからのお付き合いです。」
私はゆっくりながらも一気に話をした。顔を上げてお母様を見ると、目を真っ赤にして泣かれているお母様がそこにいた。