愛は手から零れ落ちる 2nd.
「なんて・・・なんて・・・」
お母様は言葉にならなかった。
「私、先日櫻井君が怪我をしたときは生きた心地がしませんでした。また、私の前から想い人が居なくなってしまうのかと・・・本当に気が気ではありませんでした。市役所で知り合った方はこれから好きにならなくてはいけない方でしたが、櫻井君は私が初めて好きになった人だったので、本当に・・・」
私も泣けた・・・
「嶋村さん・・・本当にごめんなさい。何度謝っても許されないわ。」
「いえ、いいんです。でも私は櫻井君と結婚したいです。ずっと一緒に居たいのです。彼にはご両親から許しを得ることが結婚の条件と伝えてあります。ですから櫻井君と話し合いをしていただけませんか。お願いいたします。私は家族が欲しいです。」
「こんな私と仲良くしたいの?」
「はい。私、母を知りません。でも母の子を想う気持ちというのは身に染みています。身を挺して私を助けてくれた母、息子を亡くしてどうしようもなくなってしまった前の彼のお母様の想い、そして櫻井君の怪我に動揺したお母様。みんなみんな子供を想う母親の愛ですよね。そういうお気持ちのお母様とどうお付き合いしたらよいかは正直わかりませんが、そのような子を想う母の気持ちに寄り添いたいです。」
「朋美さん・・・でしたね・・・ありがとう・・・今日は帰ります。」
「えっ?」
お母様は、会計を急ぎ済ませ店を後にした。
私は壮にお母様が私のところに来て、私の生い立ちとバーで勤め始めた理由、壮との出会い等を話したことを伝えた。
「全く、お袋は何をするんだ。直接朋美のところに行くなんて・・・」
「驚いたわ。でもお母様はとてもストレートの方だということがわかったわ。」
「ねー、俺かゲイと言っていたことも伝えた?」
「ううん、それは伝えなかった。」
「あー、ありがと。流石朋美。」
「だって、きっと壮のことを怒ると思ったから。」
「そういうとこあるんだよ。なんか融通が利かないというか。」
「お母様が言っていたのだけど、子供とどう付き合っていいかわからなかったって。怖かったみたい。でもオムライスを壮が美味しいって言ったから、その店にはよく連れて行ったって。今日そこでオムライスごちそうになったのよ。」
「馬鹿の一つ覚えなんだよ。俺、お袋に連れて行ってもらった店ってそこだけだ。」
「でも、今日で壮のお母様のこと、なんだか好きになったよ。」
「へー、あんなんがねー」
「壮、もう大人なんだからわかってあげなよ。壮だっていきなり親になったら、わからないこといっぱいあると思うよ。」
「まー、そうだなー。でも俺は子供のこと目いっぱいかわいがるけどなー。」
「ホント?」
「そうだよ。」
「期待してる・・・」